『さて今夜の芸能ニュースでTOPを飾るのは、アイドル養成校で知られる明嬢高校に、
なんとあの謎のイケメン登場です!』
アイドルは誰だ!
「きゃああああHEAVEN〜〜!!」
「ユニフォームもかっこいい〜〜!!」
「生の君が一番だ!!」
ここは全国高校野球選手権埼玉県大会が行われている市営大宮球場。
今日、ここで一組のアイドルがデビューする予定だった。
が。あるアクシデントにより。
注目されるべき存在がしっかり変わってしまった。
そして球場中のみならず全国中の注目を、アイドル「紫SHIKIBU」の変わりに受けることになってしまった
「彼」は。
げんなりとした表情で試合の挨拶をしていた。
周りにはけたたましく歓声を浴びせる女性に男性。
高校生のみならず、大学生やOL、サラリーマンにセレブな夫妻など老若男女がたった一人に注目していた。
猿野天国。
ごくごく普通(とも言い難いが)の男子高校生だと思われていた彼は。
実は若くしてスーパーモデルの称号を得る業界の寵児だったのである。
それが昨日、教育界における芸能情報の中心地、アイドル養成高校に視察に向かったことで
その正体を全国に知らせてしまったのだ。
「マジすみません…。監督。」
「……お前も不注意でなかったとは言えんが…。
お前のせいばかりじゃねえよ。」
ベンチにて自分の不祥事を詫びる。
だが、監督・羊谷も早々に天国を切り落とすようなマネはできるはずもなかった。
牛尾・蛇神という十二支の双璧が負傷中の今、天国の打撃力はそうそう切り離せなかったから。
…とまあ十二支の面々は、歓声という名の嬌声にもめげず。
真面目に野球をしようとしていたのだ。
その間、テレビカメラは容赦なく天国を追っていた。
『今回本名が発覚した超人気モデル「HEAVEN」こと猿野天国君。
野球を始めてから何とまだ3ヶ月!
しかし彼は飛躍的に技術を伸ばし、
公式戦1回戦では途中出場ながらなんと3打数3安打2本塁打4打点という成績を残し、
今回は4番サードでの出場です!!』
芸能リポーターがとつとつと天国のことを語るなか、
遠慮もくそもなく天国本人にインタビューをとろうとする。
『HEAVENさん、いよいよ試合ですが、現在の心境はいかがですか?
ファンは今まで知られていなかったあなたの野球姿を心待ちにしていますが!!』
『…今はHEAVENじゃないんで、コメントは控えさせてください…。』
怒る気力も試合前からなくなってきた天国は、ノーコメントを押し通す。
『今日は明嬢高校のホープ、紫SHIKIBUがデビューを果たすのですが、
少しお株を奪ってしまった形に…。』
『……。』
紫SHIKIBUの名を出されたとき、流石に天国はすまなそうな顔をする。
もともと今日の人だかりは紫SHIKIBUの為にあったはずだ。
公式戦をデビューに利用しようという考えには賛同できないが、
デビューの邪魔をしてしまったのは流石に気が引ける。
そう、思っていた…。
が。
『…なっていたようですけど、どうやらあまり彼らは気にしていないようですね。』
『は?』
何を言っているんだと天国が顔を上げると、雛壇祀ほか紫SHIKIBUのメンバーが輝く瞳で傍近くまで来ていた。
「あの、ドキドキ ずっとファンだったんだ。
後でサインを…。」
「抜け駆けはいけませんよ雛壇。
すみませんHEAVEN…猿野くんでしたね、よろしければ後ほど私とデートを。」
「御内裏〜〜!邪魔しないでよ、僕がそれを言うつもりだったんだから!」
「…。」
彼らは天国のファンだった。
同世代でありながら視線一つで男も女も魅了してしまう魔性のような、
それでいてまっすぐな瞳でカメラにとらえられた天国…HEAVENの姿は明嬢高校の生徒たちにとって憧れの象徴だった。
デビューの機会は次に伸ばす事もできる。
しかしHEAVENに会えることはデビューするより希少な価値を彼らに与えるものだった。
が。天国は今は営業じゃなく野球がしたくて来ているのだ。
「てめえら…。」
「「「「「「「「「はいvvv」」」」」」」」」
「帰れ!!これから試合だボケ!!!」
「怒った姿も素敵だ…v」
「は?」
「見たかい君たち!?
今の彼の姿を!冷たい写真ではなく熱く燃える血のほとばしる怒りのエネルギー!
なんとも純粋で、それでいてしなやかに強く、甘さまで含まれている!
やはりHEAVENは最高に素敵だ!!」
「おおおおおお!!!」
「その通りよ!雛壇く〜〜ん!!」
「良いこと言うわ!!あんたも最高よ!!」